広報戦略は、誰とどんな関係をつくるために、何を、どこで伝えるかを決めた方針です。いつ何を出すかを並べた年間の計画や、1本ずつのプレスリリースより一段上にあり、計画や原稿で迷ったときに立ち戻る基準になります。
この記事では、広報戦略を1枚の紙にまとめるために決める6つの項目と、コピーして使えるひな形を紹介します。記入例として、運営元の株式会社アマノートが自社の広報で決めていることを、ひな形に当てはめて載せています。
広報戦略とは
広報戦略と年間広報計画、個々の施策は、決めることと見直す頻度が違います。
| 層 | 決めること | 見直す時期 |
|---|---|---|
| 広報戦略 | 何のために、誰と、どんな関係をつくるか。何で知られたいか、どこで伝えるか、何で測るか、何をしないか | 年に1回と、事業の方針が変わったとき |
| 年間広報計画 | いつ、何を、どこに出すか。準備と確認の日程、使える時間 | 毎月 |
| 施策 | プレスリリース1本、取材への対応、メディアへの掲載のお願い | 1本ごと |
日本広報学会は2023年の定義で、広報を、組織が目的の達成や課題の解決のためにステークホルダーとの関係をつくって保つ「経営機能」と位置づけています(日本広報学会)。この考え方に沿うなら、広報戦略は広報担当者が単独で考えるものではなく、経営の方針から降ろしてくるものです。事業の目標が変われば、広報で関係をつくりたい相手も変わります。
年間の計画の立て方は年間広報計画の作り方にまとめています。この記事は、その計画を立てる前に決めておく方針の部分を扱います。
広報戦略で決める6つの項目
広報戦略で決めるのは、目的、相手、知られたい姿、根拠になる事実、伝える経路、測り方とやらないこと、の6つです。上から順に決めると、前の項目が次の項目の判断材料になります。
目的:事業のどの目標を助けるか
最初に、広報が事業のどの目標を助けるのかを決めます。問い合わせを増やしたいのか、採用で応募を集めたいのか、取引先や金融機関からの信用を固めたいのかで、話しかける相手が変わるからです。「認知度を上げる」だけでは、次の項目が決まりません。経営計画のどの数字につながるのかまで書いておくと、あとで測り方を決めるときに困りません。
相手:誰との関係を変えたいか
広報の相手は、顧客、取引先、求職者、社員、地域、株主、記者など多岐にわたります。少人数の広報で全員を相手にすることはできないので、目的に照らして優先する相手を二つか三つに絞ります。記者は、それ自体が目的というより、ほかの相手に届けるための経路として扱うと整理しやすくなります。
知られたい姿:ひと言で何と説明されたいか
相手が社名を聞いたとき、ひと言で何と説明してほしいかを決めます。いまは、相手が人に聞く代わりにAIに尋ねることも増えています。人に聞かれたときとAIに聞かれたときとで、同じ説明が返ってくる状態を目指します。
根拠になる事実:知られたい姿を支える材料
知られたい姿は、自分で言うだけでは伝わりません。それを支える、確かめられる事実を並べます。実績の数、始めた年、取った認定や登録、第三者からの評価などです。「業界トップクラス」のような形容は、記者にもAIにも使いにくい材料です。発表のたびにこの事実を一つずつ積み増していく、と考えると、年間の計画に入れる発表も決めやすくなります。
経路:どこで伝えるか
相手ごとに、届く経路を選びます。自社サイトのお知らせ、プレスリリースの配信サービス、記者への個別の連絡、他社のメディアへの掲載のお願い、SNS、展示会などです。自社が語る経路と、第三者に語ってもらう経路を両方持っておくと、片方に頼りきりになりません。違いは広報とPRの違いで整理しています。
測り方とやらないこと:何で確かめ、何を断るか
最後に、目的に近づいたかを何で測るかと、何をしないかを決めます。測り方は、掲載の数のような途中の指標と、問い合わせや応募のような目的に近い指標を分けておきます。詳しくは広報の効果測定とKPIの決め方にまとめました。やらないことを書いておくのは、少人数で続けるためです。断る基準がないと、頼まれた発信や思いつきの施策で時間が埋まってしまいます。
広報戦略のひな形
6つの項目を、1枚にまとめるひな形です。( )の中を埋めて使ってください。1項目を2〜3行に収めると、全体がA4の1枚に収まります。
広報戦略((年度)) 作成日:(日付) 見直し予定:(日付) 1.目的 広報で助ける事業の目標:(経営計画のどの目標か) その目標に近づいたとわかる数字:(問い合わせ数、応募数など) 2.相手(優先する順に2〜3) ①(相手):(その相手とどんな関係にしたいか) ②(相手):(同上) 3.知られたい姿 社名を聞いた人に、ひと言で:(〜の会社) 4.根拠になる事実 ・(確かめられる事実1。数字には時点と出どころ) ・(事実2) ・今年、新しく積み増す事実:(予定) 5.経路 自社が語る:(自社サイト、配信サービス、SNSなど) 第三者に語ってもらう:(記者、他社のメディア、取引先など) 6.測り方とやらないこと 途中の指標:(掲載数、自社サイトへの流入など) 目的に近い指標:(1の数字) やらないこと:(例:根拠のない最上級の表現は使わない)
記入例:運営元アマノートの場合
アマノートでは、自社の発表は代表が最終確認をして公開・送信しています。自社の広報で決めて運用していることを、上のひな形に当てはめると次のようになります。
| 項目 | アマノートで決めていること |
|---|---|
| 目的 | 取引を考えている会社が当社を調べたときに、何をしている会社かが正しく伝わること |
| 相手 | Web集客を何から始めればよいかを相談したい中小企業の担当者や経営者、比較記事などで会社を紹介するメディアの書き手 |
| 知られたい姿 | SEO・LLMOのコンサルティングと伴走支援の会社。強みは文脈を読み解く編集力 |
| 根拠になる事実 | 地域のパートナー制度への登録や賛同、自社で運営するメディアで確かめた結果など、自社が起こした出来事 |
| 経路 | 自社サイトのお知らせを先に出し、無料の配信サイトから自社サイトへリンク。他社のメディアには掲載をお願いする |
| 測り方 | 配信から24時間以内にGoogleニュースに載ったかを確かめる。AIに会社のことを尋ねたときの答え方を定期的に記録する |
| やらないこと | 他社に紹介された話題は配信しない。掲載料がかかりそうな媒体には掲載をお願いしない。根拠のない最上級の表現は使わない |
配信するかどうかは発表の種類で決めている
「経路」と「やらないこと」を日々の判断に落としたのが、発表の種類ごとに配信するかを決めた表です。登録や賛同、新サービス、提携、会社の節目は、自社サイトに載せたうえで無料の配信サイトにも出します。調査結果のように記者が記事にしうる発表は、有料の配信も発表ごとに検討します。他社に紹介された、メディアに掲載されたという話題は、自社サイトにだけ載せます。表の全体と理由はニュースリリースとはに載せています。
知られたい姿と会社情報のページをそろえた
「測り方」に入れたAIの答え方の記録から、戦略を見直したこともあります。2026年10月4日に、AIに当社がどんな会社かを尋ねる質問の答えを調べたところ、ある回答が当社のサイトから材料にしていたのは会社情報のページ1枚だけで、英文の社名も誤ってつづられていました。当時の会社情報のページには、事業内容が一行あるだけで、取り組みの中身や対象とするお客様は書かれていませんでした。
アマノートは同じ日に会社情報のページを書き直し、事業の説明、受賞歴、正式な社名と英文の表記を足しました。広報戦略で「知られたい姿」を決めても、相手が実際に読むページにその説明がなければ伝わりません。戦略の紙と会社情報のページの説明は、同じ言葉でそろえておくことをおすすめします。
少人数で広報戦略を立てるときの注意
広報の専任者がいない、または一人で兼任している会社では、戦略の立て方にも少し工夫が要ります。
発表の本数を目標にしない
「月に何本リリースを出す」を目標にすると、出すための発表が増え、根拠になる事実が積み上がりません。少人数なら、本数より、知られたい姿を支える事実を一つ増やす発表を選ぶほうが効くと私たちは考えています。発表のネタが年に数回しかないのは、少人数の会社では珍しくありません。
やらないことを先に書く
時間が限られる会社ほど、やることより、やらないことを先に決めておくと戦略が守られます。アマノートの例のように、配信しない発表、お願いしない媒体、使わない表現を書いておけば、迷ったときにその都度考え直さずに済みます。
戦略は事業の方針が変わったときに見直す
広報戦略は、毎月書き直すものではありません。年に一度の見直しに加えて、新しい事業を始めた、採用を急ぐことになった、といった事業の方針の変化があったときに見直します。日々の調整は年間の計画の側で行い、戦略の紙は動かさないほうが、判断の基準として使えます。
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戦略を決めたら、年間の計画に落とします。手順は年間広報計画の作り方に、送り先の管理はメディアリストの作り方に、AIの回答での会社の説明され方はAI検索に引用されるプレスリリースの条件にまとめています。
このメディアについて
ビズPRでは、少人数の広報担当者が発信を続けるための実務を、実際の配信で確かめた範囲で書いています。記事の作り方は編集方針に、運営元は運営者情報にまとめています。
